東京地方裁判所 平成5年(ワ)4720号 判決 1995年1月26日
原告
オリックスレンタカー株式会社
被告
日本火災海上保険株式会社
主文
一 被告は、原告に対し、三三七万円及びこれに対する平成五年四月一三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、一七九六万七七〇〇円及びこれに対する平成五年四月一三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 自賠責保険契約の締結
原告は、平成二年七月一九日、被告との間で、原告が保有し、レンタカーに供する目的の後記2(三)記載の契約車について、平成二年七月二〇日から同三年八月二〇日までを保険期間とする自賠責保険契約を締結した(以下「本件自賠責保険契約」という。)。
2 交通事故の発生
(一) 発生日時 平成二年九月七日午後三時二二分ころ
(二) 発生場所 北海道松前郡松前町字二越一〇四番地四先路上
(三) 契約車 自家用普通乗用自動車(函館五七れ一二一三)
保有者 原告
運転者 内田淳一(以下「内田」という。)
同乗者 山口育大(昭和四〇年一二月一九日生。本件事故時二四歳。以下「山口」という。)
同乗者 河野あゆみ(昭和四〇年六月一〇日生。本件事故時二五歳。以下「河野」という。)
(四) 対向車 事業用大型貨物自動車(函館八八さ一二〇八)
保有者 青函生コンクリート工業株式会社
運転者 山崎敬三(以下「山崎」という。)
(五) 事故態様 契約車がセンターラインを越えて対向車線に進入した結果、対向車線上を走行してきた対向車と正面衝突した(以下「本件事故」という。)。
(六) 事故の結果 契約車の後部座席にいた山口が死亡し、助手席にいた河野あゆみ、運転者である内田、対向車の運転者山崎がそれぞれ負傷した。
3 山口及び河野の損害の発生
(一) 山口について
山口は死亡したことによつて、逸失利益、死亡慰謝料等に係る相当額の損害を被つた。
(二) 河野について
河野は負傷したことによつて、自賠法施行令二条の後遺障害等級表第一二級(一二号)の後遺障害を負つたため、治療費、逸失利益等に係る相当額の損害を被つた。
4 原告による損害賠償金の支払
(一) (原告と同和火災海上保険株式会社との任意保険契約)
原告は、平成二年七月二四日、同和火災海上保険株式会社(以下「同和火災」という。)との間で、契約車に関し、左記の事項を内容とする自家用自動車保険契約を締結した(以下「本件任意保険契約」という。)。
記
(1) 被保険者 原告
(2) 保険期間 平成二年七月二四日から平成二年一〇月一日まで
(3) 対人賠償保険金額 一億円
(二) (原告の同和火災に対する示談交渉の委任等)
原告は、前項の契約に基づき、後記(三)に先立つて、同和火災に対し、山口の相続人である山口正道(以下「正道」という。)及び河野に対する自賠法三条による損害賠償債務に関する示談交渉及び示談契約の締結に関する事務を委任し並びに同契約に基づく示談金の支払を請求した。
(三) (本件各示談契約の締結及び示談金の支払)
(1) 同和火災は、平成四年二月九日、右請求に基づき、原告のために正道との間で示談金として三八〇〇万円を支払うことを内容とする示談契約を締結し、同月一六日に右金員を支払つた。
(2) 同和火災は、平成四年四月二五日、前記(1)と同様、河野との間で、治療費等の既払金二一四万六五八三円のほかに示談金として五三八万二二二九円を支払うことを内容とする示談契約を締結し、同年五月一三日に右金員を支払つた。
5 弁護士費用
原告は、原告訴訟代理人に本件訴訟の提起と追行を委任し、相当額の報酬として一六〇万円の支払を約した。
よつて、原告は、被告に対し、自賠法一五条に基づき、前記(三)の各示談金のうち、それぞれ自賠責保険金額の範囲内である、山口分一二九九万七七〇〇円、河野分三三七万円の合計一六三六万七七〇〇円(原告は、対向車の自賠責保険会社である日産火災海上保険株式会社から、自賠責保険金として、山口につき二五〇〇万二三〇〇円、河野につき三三七万円の填補を受けた。)と弁護士費用一六〇万円とを合算した一七九六万七七〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成五年五月二二日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1及び2はいずれも認める。
2 請求原因3(二)のうち、河野の後遺障害の存在及び程度は不知。
3 請求原因4について
(一) 同4(二)は不知。
(二) 同4(2)(1)及び(2)はいずれも否認する。
同和火災は、内田のため、正道及び河野と示談契約を締結し並びに各請求原因記載の金員を支払つたものである。
4 請求原因5は否認する。
三 抗弁(山口及び河野が自賠法三条「他人」に該当しないこと)
内田、山口及び河野は同期入社の会社の同僚でいずれも自動車免許を有するものであるが、本件事故は右三名が計画した北海道旅行に際し、原告から共同で借り受けた契約車での観光中に発生したものであることからすれば、内田、山口及び河野は被害車の共同運行供用者である。
したがつて、内田のみならず、山口及び河野も自賠法三条の「他人」には該当しないから、原告は山口及び河野に対して損害賠償責任を負わない。
四 抗弁に対する認否
争う。
五 再抗弁(山口及び河野が自賠法三条「他人」に該当すること)
仮に、山口及び河野が共同運行供用者であるとしても、同人らは、本件事故当時のみならず、旅行の全行程にわたり契約車を運転していなかつた以上、同人らの運行支配は間接的、潜在的、抽象的であるのに対し、原告のそれは直接的、顕在的、具体的であるから、山口及び河野は原告に対する関係において自賠法三条の「他人」に該当するので、原告は山口及び河野に対して損害賠償責任を負う。
六 再抗弁に対する認否
争う。
第三証拠
証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1ないし4について
1 請求原因1(自賠責保険契約の締結)及び同2(本件事故の発生)の各事実は、当事者間に争いがない。
2 請求原因3(山口、河野の損害の発生)について
(一) 被告は、同3(一)(山口分)の事実を明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。
(二)(1) 被告は、同3(二)(河野分)の事実を、河野が自賠法施行令二条の後遺障害等級表第一二級の後遺障害を負つたことを除き、明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。
(2) 河野が前記の後遺障害を負つたことは、甲三ないし一四により認められる。
3 請求原因4(原告の損害賠償金の支払)について
(一) 被告は、同4(一)(原告と同和火災との本件任意保険契約の締結)の事実を明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。
(二) 同4(二)(原告の同和火災に対する示談交渉の委任等)について
前記争いのない事実、前記認定事実、甲二八、三〇、三六、四一、四二の1、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故に先立ち、同和火災との間で本件任意保険契約を締結したこと、同契約は、同和火災又は被保険者である原告が対人事故に関わる損害賠償の請求を受けた場合、同和火災は原告の委任を受けて、原告のために折衝、示談を行う旨規定していること、同和火災は本件事故に関する損害賠償について、正道及び河野との示談交渉をそれぞれ行つたこと、同和火災は、正道に対して平成四年二月六日付けで「示談書」と題する書面(甲二八)三通を送付し、示談金として三八〇〇万円を支払うことを内容とする示談契約の申込をなし、これに承諾する場合には「当事者乙(亡)山口育大の相続人及び慰謝料請求権者代表」欄に署名、捺印して返送するように求めたところ、正道は同月九日にこれに応じたこと、さらに同和火災は、河野に対し、同年四月二五日に治療費等の既払金のほかに五三八万二二二九円を示談金として支払うことを内容とする示談契約の申込みをなし、これに承諾する場合には「免責証書」と題する書面(甲三〇)の「当事者乙」、「振込先」と日付の各欄を記入し、「受取人」欄に署名、捺印するように求めたところ、河野を代理した母河野敦子(以下「敦子」といい、河野と併せて「河野ら」という。)は同日これに応じたこと、原告は、右各示談金の支払に当たり、同和火災の求めに従つて「自動車保険金請求書兼一括払用委任状」と題する書面(甲四二の二)を提出したこと、同書面は、原告が同和火災に対して自賠責保険金相当分を含む対人賠償保険金を正道及び河野に支払うことを指図するとともに、同支払後、同和火災に対し、自賠責保険会社(被告)に対する加害者請求権(自賠法一五条)に関する一切の権限を委任する内容であること、同和火災は、同書面を受領後、正道に対しては平成四年二月一六日、河野に対しては同年五月一三日に前記各示談金を支払つたことが認められる。以上の事実を総合すれば、原告は、本件任意保険契約に基づき、同和火災に対して正道及び河野に対する損害賠償債務に関する折衝、示談を行うように依頼し、同和火災はこれを受けて正道及び河野とそれぞれ示談交渉等を遂行していたと推認することができる。
(三) 同4(三)(本件各示談契約の締結及び示談金の支払)
(1)ア 甲二八、四九によれば、同和火災は、正道に対し、平成三年一二月二四日付けの書面を以て他人性が否定されたために原告に付保されている自賠責保険は使用できなくなつたことを理由に、好意同乗により三〇パーセント(一五三七万二〇〇〇円)を減額した三五八六万八〇〇〇円の示談金を支払う旨提案したが、正道はこれに対し不当であると同和火災に申し入れたこと、これを受けて同和火災は改めて示談金を三八〇〇万円とする提案をし、正道はこれに応じたこと、同和火災担当者は、示談金の支払に先立ち、平成四年二月六日付けで示談書(甲二八)三通を送付し、これらに署名捺印の上送付するように正道に指示し、正道は日付欄に日付を記入した上「当事者乙(亡)山口育大の相続人及び慰謝料請求権者代表」欄に署名捺印して同和火災に返送したこと、その際、正道は、示談の相手方となる「当事者甲」欄には、「内田淳一親権者」として内田の父である内田廣一の署名と捺印がなされており、原告の名前が記載されていないことに疑問を持つたものの、右内田廣一が示談金を支払うのではなく、同和火災が原告のために支払うものと認識していたので特に問題にしていなかつたことが認められる。
イ 前記認定事実、甲三〇、四二の1、2、五一によれば、敦子は、同和火災の担当者の指示に従つて、免責証書(甲三〇)の記載のうち、「当事者乙」欄と「受取人欄」にそれぞれ東京都小金井市前原町四―六―一六、河野あゆみと記入し、「振込先」の各欄と日付を記入し、「当事者乙」欄の河野あゆみの右に押印したこと、その余の欄は同和火災の担当者によつて事前に記入されていたこと、同和火災の担当者が免責証書の相手方当事者として内田淳一の氏名を記入したのは、同人と原告とが連帯債務者として河野に対して責任を負う以上内田の氏名を記入しても問題がないと認識していたからであること、他方、河野らは同和火災が誰に代わつて示談金を支払うのかについて全く知らず、「当事者甲」欄になぜ内田の氏名が記入されているかについても全く疑問を持たなかつたことが認められる。
(2) 前記認定の各事実によれば、同和火災は、被保険者である原告の委任を受けて、正道及び河野との示談交渉を行い、各示談交渉が成立したことから、原告から「自動車保険金請求書兼一括払用委任状」の交付を受けて保険金を正道及び河野に支払つたことは明らかである。
ところで、各示談交渉が成立したときに、同和火災の担当者は、名宛人を原告ではなく内田とする正道又は河野の示談書又は免責証書を作成しており、被告は、このことを理由に、示談交渉は原告ではなく許諾被保険者である内田との間になされ、したがつて、一括払いも内田のためになされたと主張する。しかし、同和火災の担当者は、内田も連帯債務者として正道及び河野に責任を負う以上内田の氏名を記載しても問題はないと認識したから、内田宛の示談書又は免責証書を作成したのであり、また、同和火災は、原告から示談交渉の委任を受け、かつ、「自動車保険金請求書兼一括払用委任状」の提示があつたからこそ、一括払いをしたものであり、その一連の流れからすれば、同和火災にとれば、原告のために一括払いをしたことは明らかである。そして、示談書又は免責証書の名義当事者である内田、正道及び河野の認識は前示のとおりであつて、いずれも、示談書又は免責証書の名義自体には関心がなく、正道は、示談書の名義にもかかわらず、同和火災は原告のために支払つているものとの認識を有していたのであり、また、河野らは、同和火災が原告のために示談交渉等を行つているとの明確な認識を有していなかつたとしても、同和火災の担当者が、示談交渉に先立つて同和火災が交渉の席に着く理由(原告が契約車につき本件任意保険契約を同和火災との間で締結し、同和火災はこれに基づいて示談交渉を行うことになつたこと)を説明していたと推認されることからすれば、河野らは、同和火災が原告のために示談金を支払つたとの認識をなし得たと認めることができる。
この点、被告は、一括払保険金のうち自動車保険金は、自家用自動車普通保険約款六章二〇条に基づき、被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で、判決が確定した時、または裁判上の和解、調停もしくは書面による合意が成立した時に保険金請求権が発生することから、本件一括払も前示示談書又は免責証書の名義当事者である内田のためにのみされたと主張する。なるほど、自家用自動車普通保険約款六章二〇条は、任意保険の保険金請求権は、被保険者と損害賠償請求権者との間で書面による合意が成立した時等に発生することを定めているが(乙一二)、これは、被害者又は被保険者が、保険会社に対して保険金の支払いを請求し得る要件及び時期を示したものであつて、保険会社自らが進んで保険金の支払いをするときは、同条の規定は適用されないものというべきである(実務上行われている内払いの制度は、その証左である。)。したがつて、同和火災が原告と正道及び河野との間で実質的に示談が成立した場合には、原告と正道及び河野との間で示談書又は免責証書が作成されなくても、原告のために一括払をしても法律上は何ら差し支えず、また、その効果が原告に及ぶのは当然というべきであつて、被告の右主張は理由がない。
なお、このように複数の被保険者が存在する場合において、一括払請求者以外の被保険者宛てに示談書又は免責証書が作成されたときは、一括払請求にかかる被保険者(本件でいえば原告)と示談書等の名宛人である被保険者のいずれもが、自賠責保険会社に自賠法一五条に基づく請求を行う可能性のあることは排除されないが、このような場合は、一括払をした任意保険会社から事情を聴取していずれかの被保険者に自賠責保険金を支払えば足りるから、問題はない。
(3) そうすると、請求原因4(三)の事実は認められる。
二 抗弁及び再抗弁について
1 甲一の1、2、二五、乙八、九、一三、弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。すなわち、日信システム開発株式会社の同期入社の社員である山口、河野、内田は、別の女性の同期入社の社員を加えた四名で、平成二年九月三日から同月八日まで、釧路から函館に至る北海道旅行の計画を立てたが、その女性社員の都合が悪くなつたため三名で行くことになつた(以下「本件旅行」という。)。本件旅行は(株)日本旅行主催の「マイチヤート」という商品の中から選択されたもので、オプシヨナルメニユーとして、右期間、釧路から函館までレンタカーを利用した観光を目的とするものであつた。(株)日本旅行へのレンタカーの申込みは、内田、山口が忙しかつたので河野が同年八月二日に行つた。そして右山口らは当初の予定通り同年九月三日に原告の釧路駅前店で原告から契約車を借り受けた。その際、原告との間で契約書を作成したが、「運転者」欄及び「借受人ご署名欄」のいずれにも山口が署名した。右山口らは契約車を移動手段として利用したが、本件事故に遭うまでの間、内田が一人で運転していた。内田は通勤の際や休日にも車を利用していたため運転には馴れていたが、河野は車を持つておらず、たまに必要な時に小金井市の実家に住む敦子の車を借りて運転していた程度で日常あまり運転はしていなかつた。
2 以上のとおり、山口、河野、内田は、本件旅行の日程、観光地、宿泊先等について共同して計画を立て、契約車を利用して道内を移動して観光していたこと、河野がレンタカー利用の予約申込みを行つたが、実際に原告との間でレンタカーの賃貸借契約を締結したのは山口であること、山口は右契約時には運転者が自分であるとして申告したが、実際には内田が旅行中一人で運転していたこと、本件旅行の費用は各人が分担していたこと(右山口ら三名は同期入社の社員であり、そのうちの一名ないし二名が他の者の費用を負担するような特別な事情が窺えないことから、右のとおり認める。)からすると、右山口ら三名の間では、誰が契約車を借り受けたのかについて明確な認識が乏しかつたと考えられ、賃貸借契約上の賃借人の地位の有無はさておき、実質的、経済的には右山口ら三名が共同して契約車を賃借していたと評価すべきである。
そして、少なくとも山口は、原告との間でレンタカーの賃貸借契約を締結した者であつて、本件旅行において契約車を運転したことがなかつたとしても、その運行の利益を享受していたのみならず、単に便乗する同乗者とは異なり、契約車を借り受けていた者として、例えば内田に対して運転の交替を促したり、運転につき一定の指示をしたりすることのできる立場にあつたことにかんがみれば、原告の契約車に対する運行支配性(後述する)との比較において程度の差はあるにせよ、契約車の運行に対して支配を及ぼし得る地位を得ていたと解されるから、同人は契約車の共同運行供用者であると認めるのが相当である。
また、河野も、実質的、経済的には、契約車を借り受けていたのであつて、単なる同乗者と異なるというべきであり、この点からいえば、契約車の共同運行供用者であると認める余地があるというべきである。もっとも、前記認定のとおり、河野は一度も契約車を運転しておらず、かつ賃貸借契約の当事者でもないのであるから、内田の運転ミスにより第三者に損害を与えた場合、河野も自賠法三条の責任を負うべき地位にあるものと認めることに躊躇を感じざるを得ない。
3 他方、原告は、契約車の運行供用者であり(契約車の保有者であることに当事者間で争いがない。)、契約車を賃貸するに当たつて借受人の免許証を確認し、使用時間、行先を指定して出発時のメーター、走行距離を記録していること(甲二五)、その際、行先変更や返還予定時刻の遅延、車両故障の場合の措置等について取決めがなされるのが一般的であり(当裁判所に顕著である。)、本件でもかかる取決めがなされていると推認されることからすると、本件事故当時、原告が契約車の運行に対して制約を加えるという観点から相当程度の運行支配を及ぼしていたということができる。
4 そこで、河野が共同運行供用者の地位を有すると仮定して、山口及び河野が自賠法三条の「他人」に該当するか否かを判断するために、同人らの契約車に対する運行支配の程度と、原告のそれとを比較検討すると、河野については、前記認定のとおり、被害車の賃貸借契約に先立つ予約申込みを行つているものの、本来内田又は山口が行うべきことを同人らが忙しかつたので河野が代わりに行つたにすぎないこと、河野は普段日常生活において車を運転しておらず、本件旅行において、運転者である内田に対して運転の交替や運転方法の指示等具体的に運行を左右するような言動をとることはおよそ考えられないことからすると、河野の契約車に対する実際の運行支配は原告のそれに比べてかなり弱い程度であつたと認められる。これに対し、山口については、同人が原告との関係で契約車の賃借に関する責任を代表するとともに、契約車の使用権限を有する地位にあり、かつ自ら運転する旨申告していたことに照らしてみると、原告の契約車に対する運行支配の程度に比べて、山口による事故当時のそれは、直接的、顕在的、具体的であつたと認められる。そうすると、河野は、原告に対する関係において自賠法三条の「他人」であることを主張することができるが、山口はその旨主張することはできないというべきである。
三 請求原因5について
弁論の全趣旨によれば、被保険者たる原告が自賠責保険会社である被告に対し、自賠責保険契約に基づき保険金の支払を求めたにもかかわらず、被告がこれを拒否したために、原告は右支払を求めるための本件訴訟提起を余儀なくされ、弁護士費用を出捐せざるを得なかつたことが認められるが、被告が保険金支払債務の存在を争つてこれを任意に履行せず、原告の提起した訴訟に応訴して争うことが社会通念に照らして相当でないと認められるような特別な事情が認められるのであれば格別、本件ではそのような事情は認められないのであるから、結局、保険金支払債務の不履行によつて発生した原告の損害については、商法所定の年六分の割合による遅延損害金の限度で賠償し得るに止まり、不法行為訴訟とは異なり弁護士費用を請求することができないものと解すべきである。
よつて、弁護士費用に係る原告の請求は理由がない。
五 結論
以上の事実によれば、本訴請求は、河野に係る三三七万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成四月一三日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 南敏文 大工強 渡邉和義)